「気の導引術とは何か」と一言で説明すれば、からだを自然の状態に保つための方法といえます。
では「自然の状態」とは何かというと、からだの各器官が正常に働いている状態のことなのです。
気の導引術の基本は子供のあるがままの姿
わかりやすい例が、幼児の寝姿です。
幼児は寝ながら、よくからだを動かします。昼間元気に遊ぶ子ほどよく動き、親は寝相が悪いとか、カゼをひくとかいって心配をしますね。
しかし、この心配は余計なもので、幼児は寝ながら無意識に自然の気の導引術をしているといえます。
つまり、昼間の動きであまり使わなかった筋や関節を動かして、昼間の動きでたまった邪気を排泄して、疲労をいやし、新鮮な“気”を補給し、活力をたくわえているのです。
このような子供のあるがままの姿が気の導引術の基本であり、これがまさに“気の導引術”なのですね。
幼児の寝姿を良く観察してみると、つねに からだにとってもっとも自然な状態を保つ姿勢になっています。
たとえば、横向きになったときには、下側にくる腕をからだとほぼ直角に伸ばし、上側の腕は少し曲げて、手のひらが腹か床につくようにおき、また、下側の足はまっすぐに伸ばし、上側の足は「く」の字に曲げています。
この姿勢は背骨がまっすぐに伸びて、もっとも自然な状態になるのですね。
気の導引術の秘めたパワー
道家では病気や老化は反自然が原因と考えます。
大人になると、こういう寝姿を無意識にとることはなくなってしまいます。
からだの動きの習慣の積み重ねによってからだのひずみが生じてしまうからなのです。
もしこのひずみがなければ人間はもっと健康に生活でき、寿命ももっとのびるはずであると考えたのは古代中国の人たちでした。
人間のからだを本来の自然の状態に保つ方法があれば、人間はもっと若々しい状態で、らくらくと長生きができるはずということなのです。
その方法こそが気の導引術なのですね。
道家の養生法としての気の導引術
人間が病気にかかったり、老化するのはどこか自然にさからった生き方をしているからで、そのゆがみを正して人間のからだにあった状態をとりもどせば、病気にかからないし、かかった病気も早く治せる、そして、老化もせずに長生きできるはずである というのが「無為自然」の中から学んだ道家の養生法なのです。
つまり、ごくごくひらたくいえば、自然のままにいきることこそ健康で、人間が本来もっている能力を最大限に発揮できるということなのですね。
ところが、文化・文明が進むにつれ、自然のままに生きることが難しくなり、健康はそこなわれ、人間の能力が一つずつ失われているといわれます。
気の導引術は”人間が自然のままに生きる方法”を説いています。
しかもその最大の特徴は、単なる精神訓話や、観念訓ではなく、一定の動作をともなう呼吸法とも、瞑想法ともいえるでしょう。
これは座禅やメディテーションのような宗教的な「さとり」を求めるものとは本質的に異なるのですね。
(早島正雄著
「自分で治す 気の健康術」より参照)